1日の夜遅く、しとしとと冷たい雨が降る盛岡に着くと、下の弟がクルマで迎えに来てくれた。
通夜が終わった会場からは、もうみんな帰ってしまったという事だったが、
伯父が泊まって僕の帰りを待ってくれているという。
正面玄関は施錠されていて入れなかったので、ばあちゃんの部屋の裏口から入る必要があった。
裏口の窓から、少し明かりが落とされた部屋の中に、写真が飾られた祭壇と棺が見える。
雨の中弟と少し待っていると、「よく来てくれたねえ」と、伯父が戸を開けてくれた。
1ヶ月ぶりに対面したばあちゃんの寝顔は、1ヶ月前と何も変わらない穏やかな寝顔。
後で聞いたら、右手と左手を母と伯母に握られ、スーッと息を吸った後旅立ったそうだ。
KOU:『幸せだったんだよね、ばあちゃん』
『幸せだったのす』
ばあちゃんの声がはっきり聞こえた。

翌日、盛岡は晴天に包まれた。
火葬がはじまり親族たちが控え室で休んでいる間、僕は煙を見送ろうと1人外に出ていた。
だが、この火葬場、煙突が見当たらない。
2人の弟が外に出てきた。
上の弟:「ああ、外にいたんだ」
下の弟:「何やってんの?」
KOU:「いや、あの坂の上が気になって・・・それに、外もずいぶん涼しいから・・・
ってか、今の火葬場って煙突ないのかね」
上の弟:「周囲に配慮して、煙も出ないくらいの高温で焼いちゃうんじゃないのかな」
KOU:「ああ、そういう事・・・。でも、排熱の為の煙突はどっちにしても必要だろ」
そんな事を言い合っているうちに、建物の上から煙が出た。
「あっ」
煙突は周りから見えないようになっているだけで、ちゃんとあったようだ。
そのやや黒い煙はちょっと出ただけだった。
きっと、着火時の燃料か、棺が燃える時に出た煙だろう。
煙は3人に見送られて空に消えていった。
『晴れてよかった』心からそう思った。
1時間後、火葬が終わった後のばあちゃんと対面する。
今まで堪えていた従兄姉や弟たちが堪えきれずに涙を流した。
見回すと、伯父も伯母も母も、親族の多くの人も涙を流している。
本当に、皆に愛されていたんだなあ、ばあちゃん。

火葬場の前にある丘に続く小路には、青々としたイガが一つ、落ちていた。
「ねえ、KOUちゃん、ひいばあちゃんはまた赤ちゃんになって生まれてくるの?」
葬儀の後に姪っ子のかれん(6歳)に訊かれた。
そういえば、子供の頃同じような事をよく考えたっけな。
KOU:「そうだね。多分、また生まれてきて、どっかでかれんと出会うのかも知れないね」
かれん:「どこに生まれるの?」
KOU:「ん!?・・・うーん・・・」
さて、どこに生まれるんだろう?
ばあちゃんのお父さんもお母さんもこの世にはいないわけだから、生まれようがないな。
KOU:「・・・ひいばあちゃんのパパとママがいる場所に生まれるんじゃないかな」
かれん:「赤ちゃんはどうやって生まれてくるの?」
KOU:「そりゃあ、パパとママがいるところに生まれてくるのさ」
子供の頃の僕はどんな答えを出したんだったっけ。
夜、寝る前に死んだ後の事を色々考えて、怖くて眠れなくなった時代があったと思う。
小学校高学年の頃だったかな。
その後、生と死のメカニズムは詳細に判ったけど、死別する悲しさは子供の頃より深くなった。
そして、久々の肉親の死・・・やっぱり辛かった。
でも、肉親の死だから判った事がある。
ここいる甥っ子や姪っ子の存在の大きさだ。
2人はばあちゃんの孫の子。
5人いるばあちゃんの孫の中で子供を授かったのは、今のとこ上の弟だけだ。
この2人がこの場にいるかいないかで天地の差だ。
新しい命、子供って希望なんだ。
これは血がつながっていない人や、大好きだった有名人の死の時には全く気づかなかった事だ。
『命をつないでいくって、こういう事か』
だっこする かれんの体温に、そんな事を思っていた。
かれん:「ねえKOUちゃん、ひいばあちゃんはどこに生まれてくるの?」
KOU:「うーん・・・^ ^;」
ひいばあちゃんは、もう生まれてはこないけど、
でも、ずっとずっとかれんの事を見守っていてくれるんだよ。
そうだよね、ばあちゃん。
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