(2)モスクワ・シェレメチェヴォ国際空港→ハカス共和国・アバカン国際空港
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モスクワのシェレメチェヴォ空港にはちょっと遅れて、現地時間の16:30頃に到着。

ボーディングブリッジで施設内に直結だったので、まだ、モスクワの空気には触れていない。

空港は、今まで訪れた国内外の空港よりも照明が暗い感じ。これは、ネットの情報にあった通りだ。






僕は今までビザ免除の国しか行った事なかったが、今回はロシアの観光ビザが必要だったので、

旅行会社に手配してもらい、ロシア大使館にパスポートを2週間預けるという経験をしていた。

なので、『入出国の手続きも時間かかるんだろうな・・・』などと思っていたが、

他国入国時、機内でやらされる『出入国カード』を書かされなかったのに、空港に入ってから気づいた。

改めて、旅行会社からもらった『ロシア旅行の手引書』を見てみると、

モスクワのシェレメチェヴォ国際空港やドモジェドヴォ国際空港、あるいは沿海州のウラジヴォストック空港など、

いくつかの空港のターミナルでは出入国カードの記入が自動化されていて、

パスポートコントロールのカウンターに行くと、係員が旅券と査証のチェックをすると同時に

自動でプリントアウトしてくれる様になっているらしい。





『ふうん・・・』





ほどなく行きついたシェレメチェヴォ国際空港(Dターミナル)のパスポートコントロールは、

東京の成田や上海の浦東など巨大ターミナルのそれと比べると、圧倒的に狭くこじんまりした感じ。

ただ、あれらの空港のその区画が、のっぺりとした鉄壁感漂う空間になっているのに対して、

こちらは高い天井がガラス作りのとんがり帽子のようになっていて、陽光をよく通し、

空港の他の場所とはうって違う、とても明るくて清潔な印象の空間に見える。

ドラマの中で教会だとか、お花畑で、周囲が暗いのに中央一点だけ空から光が差し込んでる、あの感じ。

なんか、妙におしゃれ。

頭の中にある『ロシア』のイメージと違う。もっと無粋で、古ぼけてモッサリしてる感じかと思ってが。

カウンターはロシア連邦人向けも、外国人向けも、殆ど混雑していなかった事もあり、

今までの入国審査と比べても圧倒的短時間で入国できた。間違いなく、最短記録。

ただ、エスカレーターを降りてバケッジルームに入ると、古い、普通の大空港と同じ雰囲気になる。

そして、やっぱり、照明が暗い。

あと、トイレがとても汚い、臭い。

トイレの入口のドアに清掃係の連絡票がかけられていてちゃんと掃除してるようなのに、汚い。

僕は、モスクワにいる間、空港のトイレは気持ち悪くて1回も使えなかった。








●とりあえず、空港から出てみた
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空港から出たとたん、あっ、ひんやり

この日は気温20度ちょっとしかないかも知れない。

ここ、モスクワは北緯55度。

暑い暑い名古屋や東京はだいたい北緯35度。

日本の中では涼しい僕の故郷・盛岡でも、だいたい北緯40度。

現代日本の実効支配地域の一番北方の稚内でも、だいたい北緯45度。

なるほど、モスクワ、涼しいわけだ。





国内線の出発時間は23:40で、まだ6時間近くある。

空港の近くに街でもあるようなら探訪してみよう・・・と思っていたが、空港周辺にはホテルくらいしかなさそう。

ここから出ているバスや鉄道でモスクワ市内に出てみるという考えもあるが、

モスクワ観光の予定など何も立てて来なかったので、それはちょっと怖かった。

とにかく、ロシアの雰囲気も掴めていない状況なので、空港の中を散策してみよう。








●国内線ターミナルの雰囲気
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シェレメチェヴォ国際空港Dターミナルは、国際線・国内線、膨大な飛行機を離着陸させているが、

空港施設はいたってコンパクトにまとまっていて、構造は非常にわかりやすいと思った。

出発ロビーは国内線・国際線ともに3Fに、到着ロビーは国内線・国際線ともに1Fに集約されている。

出発も到着も、国内線はゲートがある側を向いて左側、国際線は右側にまとまっていると思えば覚えやすい。

写真に写っているのは正面が航空各社の搭乗手続きカウンター(右側にまだ続いている)であり、

左側にあるのがインフォメーションセンターや航空会社のカウンター。

右側の画面外には国内線・国際線のカスタマーコントロールがあり、

そのさらに向こうは、この写真と大体正対称になる感じで、国際線のカウンターが並ぶ。

















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国内線航空会社の搭乗手続きカウンター。

シェレメチェヴォ国際空港はアエロフロートのハブ空港というだけあって、アエロカウンターだらけ。

全ての館内表示がキリル文字だが、一応小さく英語表示もあるので、そんなに迷う事もなさそう。

ただ、国際線カウンターとインフォメーションセンター以外のスタッフには英語は通じないと思った方がよさそう。

国内線カウンターのスタッフや空港内の警備スタッフ(場内案内係)、旅行客にクーポン配っているスタッフ、

荷物預かりカウンターの職員、飲食店の店員、基本的に英語は通じなかった。














●待合スペースで時間をつぶす・・・
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国内線カウンターに面した待合スペースでは、座席で熟睡しながら飛行機を待つ人の姿もちらほら。

1人旅っぽい女性客も、当たり前にそのへんでゴロゴロ寝てる。

・・・まあ、こういう『世界の雰囲気』、嫌いじゃない。











●『グーグル翻訳』は殆ど使い物にならなかった

日本出発前、『これがあれば全世界でらくらくポタリングが!』みたいな感動を覚えたグーグル翻訳、

今回の旅では『翻訳機』としては全く使い物にならなかった(『辞書』としては使えたが・・・)。

事態が発覚したのは、空港内で初めての買い物・・・自販機でペプシを買おうとした時の事。

約60ルーブルのペプシを買おうと自販機に100ルーブル札を入れて、番号を指定したのだが…反応しない。

『おかしいな・・・』と思いながら、しばらくカチャカチャいじっていると、

フロアで何かの呼び込みをしていたらしい、赤い衣装を着た学生位?の女の子が助けに来てくれた。




女の子「〇×△%〒☆§÷√$&」

KOU「・・・なんだって???」




この間抜けな東洋人を助けに来てくれたようだが、どうやら彼女もロシア語しか話せないみたい。

多分、彼女は「お手伝いしましょうか?」とか「どうしました?」みたいな事を、ロシア語で言ってるんでしょう。

だけど、逆に、僕はロシア語は全く判らない。

「100ルーブル入れたんだけど、機械が反応しないんだ」・・・と、英語で伝えてみるのですが、

「〇×△%〒☆§÷√$&」みたいな言葉しか返ってきません。




『そうだ、アレがあった




ポケットからサッと自慢のXPERIAを取り出し『グーグル翻訳』を立ち上げて、

興味深そうな目でこちらを見ている彼女の前で、「お金を入れたのに、機械が反応しない」とスマホに言います。

これで、僕の日本語はロシア語に翻訳される筈・・・

しかし、表示された文字は・・・『通信環境がありません』

おいっ

通信環境が無くても使えるって書いていたから、言語パックDLしたのに!

スマホから僕の顔に目線を移した彼女に両手でバッテンマークをしたら、苦笑いしていた。

・・・困ったな、飲み物は別にいいんだけど、人の良さそうなこの子の時間をこれ以上溶かすのが忍びない。

さっきの100ルーブルは機械の不調で自動販売機に飲み込まれたと考えて、

もう1枚100ルーブル札を取り出して自動販売機に差し込み、リトライしてみる。

その時、ふと、「ペプシ買うのにこんな苦労するなんて・・・」と無意識に日本語でつぶやいたところ

「ペプシ?」彼女が反応しました。

「Yeah,PEPSI...」・・・

あっ

そうか、別に状況を説明しなくてもいいんだ。

「ペプシ」ってだけ伝えりゃあ・・・

果たして、彼女はササッと自販機を操作して、ペプシを出してくれた。

投入した200ルーブル分のおつりも、ちゃんと出てきたみたい。

「スパシーバ」(ありがとう)

僕が唯一話せるロシア語を伝えると、彼女はにっこり笑って、

僕が判らない言葉で何か言って、去っていった。

『なんていい人なんだ』

例えば、もし、僕が英語をひと言も理解出来ない人間だったとして、

日本国内で何か困っている外国人に出くわして、日本語で声かける勇気があるかな?

あるいは、明らかに中国語しか話せなそうな人が困っているシーンに出くわして、

ほとんど中国語聞き取れない僕が、日本語で助け舟を出す勇気があるかな?

・・・多分、僕には出来ないんじゃないだろうか?

機械の操作について考えてみると、僕も彼女と同じ操作をした筈で、なんか納得いかないけど…

でも、いいや。

機械がちゃんと動かなかったおかげで、ちょっとほっこりする体験が出来た。

ただ、会話がこんな調子では、道に迷った時もどうにもならなそうなので、

あとはもう、狭い空港の中をブラブラするくらいしかない。

この空港の使い勝手のよさや面白さが判ったのは、『帰路』の時だった。










●国内線3番ゲートへ
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何もする事が無いので、国内線搭乗ゲートにチェックイン。

通路から滑走路を眺めてみる。

21:00頃になっても、モスクワはまだまだ昼のよう。












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国内線のゲートもたくさんあるシェレメチェヴォ国際空港、ゲートは3つセットで1ホール化され設置してるみたい。

僕が搭乗するハカス共和国アバカン国際空港行きの便は23:40分に3番ゲートの予定だったのが、

2番ゲートに変更となっていた。

まあ、同じホールなので、よほどでなければ大事に至る事はなかろう。

ここはそのホールにあるカフェテラスで、ひっきりなしに訪れる国内線旅客によって常時満員の状態。



















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23時が近くなると、一気に周囲が暗くなってきて、空港は深夜の雰囲気に包まれた。

しかし、ノヴォシビルスク、イルクーツク、クラスノヤルスク、アルハンゲリスク、ボルコグラードなど、

連邦内主要都市への国内便を次々に飛ばすこのロビーは、何時になっても大勢の人で賑わっている。

幼稚園児くらいの子供連れなども多い。多分、24時間この状況だろう。

雰囲気が、日本の大都市の『深夜バスターミナル』に似た感じに思えた。

ロシア人にとっての夜間飛行の感覚は、日本人にとっての夜行バスの感覚に近いのかもなあ。














●国内線搭乗手続き開始
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定刻より少し遅れて、搭乗手続きが始まった。















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インターネットの情報では、ハカス共和国はモンゴロイドが多い地域という事だったが、

そこに向かう人の顔を見ると、その情報は殆ど間違いなんじゃないかなあ・・・と思った。

実際、現地に行ってみると、インターネット上の情報なんてあまりアテにならない事を実感したりするけれど。。。


















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ハカス共和国アバカン国際空港行きの便、もしかすると『スカスカかも・・・』なんて思っていたのが

きっちり満員状態だった・・・。

アバカン空港の時刻表を見ると、就航都市も便数もあまり多くないのは一目瞭然。

便数が少なければ、乗客が集中するのは当たり前ということか。


















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アエロフロートの機材には1機1機『名前』がつけられているらしい。

左側のロシア国旗の下にある文字が、この機材の名前かも知れない。

グーグル先生にアルファベット翻訳してもらうと、「S.OBRAZTSOV」と表示される。

なんとなく、人名っぽい様な気が・・・。
















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すごいな、こんな時間なのに、無数の機体がエンジン音を轟かせている。















●ハカス共和国へ
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成田→モスクワの国際線と比べ、より庶民的な旅客が多いように感じたハカス共和国行きの便。

スラブ系とコーカサス系の人が多い様に見えた。

要は、東欧系の顔立ちや、うまく表現出来ないけれどアラブ人でもアジア人でもない、

中東とヨーロッパ系が混じったようなあの顔立ち・・・というか・・・。

僕ら日本人と同じモンゴロイド系も10人くらいはいたろうか。

でも、明らかに日本人や中国人、韓国人といった、極東グループの人達ではない。

















●国内線の機内食
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アバカン国際空港へは5時間ほどのフライトになるので、機内食が出る。

モスクワ発の国内線なのに、白米が出るんだね・・・。アエロはやっぱり『お米』にこだわっているのかしら?

右側はパッサパサのチキンフレークと、何かよく判らない野菜(あまり味がしない)のサラダで、

付属のオリーブオイルをかけて和えて食べるらしい。

味が薄く、食感に好みは分かれるかもしれないが、ソースがけのライスとともに美味しかった。







このフライト、僕は通路側の席で、右側にはヒジャブ(ムスリムの女性がよく身につけるかぶりもの)をつけた

中央アジア系の顔立ちのおばあさんが座っていた。

彼女の前の席には旦那さんとおぼしきおじいさんが座っていたが、2人とも機内で食事をとる事をせず、

パンやバター、クッキーなどを持ちかえるつもりのようで、おばあさんが受け取って、小袋に入れてた。

僕もおなかいっぱいだったので、それらをおばあさんに渡すと、喜んで受け取ってくれて、

代わりにサラダを差しだしてくれた。

『う。』

食べてあげたいけど・・・そんなにたくさん食べるようなサラダでもないんだよな。

おばあさんは僕の顔を覗き込んで「ニエット?」と訊ねてきた。

ニエット・・・たしか「NO」と同じ否定の言葉だったな・・・と思いながら、「ニエット」(いらないです)と伝えた。

おばあさんは、ちょっとがっかりした様な顔をして、黙って前を向く。

旅情を感じさせてくれる佇まいの方だったので、お願いして一枚写真撮らせてほしかったんだけど、

ちょっと、そんな空気ではなくなってしまった。

残念。













●シベリアの大地
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モスクワ行きの飛行機は機体中央後部の最悪の席で、見たくても見れなかったシベリアの大地。

この飛行機でも通路側の席でほとんど景色見れなかったが、

右隣のおばあさんと、その右隣の女の子がトイレで席を立った時、ようやく覗き込む事が出来た。

地平の彼方まで草原と荒野が広がっている。

遠くの方はかすんでいて、どこが空と大地の境界なのか、よく判らなくなるような景色。

手前を見ると、丈の低い草原と森林が入り混じったり、丘陵や湖沼があったり、わりと変化に富んでいる。

70年前の秋、祖父は広大な平原をここまで連れてこられ、そして、ほどなく、真冬に亡くなった。

飛行機が着陸態勢に入り、機体を傾けて旋回する時、地上にある小さな町がくっきり見えた。

『ここで70年前に・・・ここが・・・』

なんか、心臓の鼓動が早くなったような気がする。

窓の下の町の景色、荒野の中にポツンと存在するような、それはとても寂れた町に見える。

その町は一瞬で通り過ぎ、ほどなく飛行機はハカス共和国の首都・アバカンの空港に着陸した。


(つづく)